各種素材説明・エスパーステントのお手入れ方法・設営時のワンポイント等、エスパースに関する情報をお届けします。
山岳テントに使用する生地は「組成」「織り方」「糸使い」「目付」「加工方法」の5つの要因から成り立っています。 エスパースの本体パネルやフライシートに使用する生地はその機種に適した素材、加工方法を選択して採用されています。
ポリエステルと比較してしなやかで軽量な点が長所ですが、紫外線に若干弱く、濡れるとやや伸びる性質があリます。
エスパースは基本的にフライシートを併用する使用環境なので、紫外線等に対する耐候性の強さよりも、収納時の軽量コンパクト化を最重視し、本体パネルには撥水加工、グランドシートには防水加工と撥水加工を施したナイロンを採用しています。
ナイロンと比較すると紫外線に強く耐候性に優れ、湿度の変化による伸縮が少ないのが特徴です。短所としてはややしなやかさに欠け、重くなることです。フライシートは直接太陽光や雨水を受ける部分なので、エスパース各種フライシートの生地には上記の長所を重視し、防水加工と撥水加工を施したポリエステルを採用しています。
タテ糸とヨコ糸をを交互に交差させて織った織物です。もっとも一般的な織り方で、テントパネルをはじめフライシート、グランドシート、ポールスリーブ等多くの部分に使用されています。
細い糸の平織りに等間隔で太い糸を格子状に織り込んだ織物です。破れた時にこの太い糸の部分で引裂きを止める構造になっています。軽量テントに使うことが多い生地です。
タテ糸がヨコ糸の上を3本(2本)、ヨコ糸の下を1本、交差させて織られる織り方です。写真では判りにくいのですが、斜めにウネが現れてみえるのが特徴です。厚手に織っても平織りよりしなやかなため、強度重視の冬山用テントなどに採用されることが多かったのですが、近年の軽量化指向からほとんど使用されていません。ちなみに現在は廃版になってしまった「エスパース・オールシーズン」のテントパネルには110dnのポリエステルツイルが採用されていました。
デニールとは9000mの糸の質量をグラムで表したもので、糸の太さの単位として使用されます。デシテックス(10000mあたりの糸のグラム数)、テックス(1000mあたりのグラム数)も使われています。ですので数字が大きいほど太い糸ということになりす。
現在アウトドア製品に使用されている軽量織物は一般的には30dnが多く使用されていますが、薄手なのでリップストップ織りにして引き裂き強度を維持している場合がほとんどです。最近では15dnクラスもウエア素材として使用され始めています。
エスパースでは基本的に「30dnリップストップ」を本体パネルとフライシート(組成は違います)、「40dnタフタ」をグランドシート、70dnタフタをポールスリーブに採用しています。
製品購入時にはあまり意識しない要素ですが、生地の織り密度のことです。一般的には同じ糸の太さの場合、織り密度が低いと軽い素材になりますが寸法安定性が悪くなる傾向があり、さらにスリップ(生地の目ズレ)起こしやすくなります。また、同等のウレタンコーティングを施しても耐水圧が低下します。
防水加工の代表格です。ウレタン樹脂を生地の裏側にコーティングして防水効果を出します。 通気性、透湿性はありませんので、状況によっては結露します。エスパース全モデルのレインフライ、グランドシートにはこのウレタン加工が採用されています。現在の耐水圧はおおむね2000mmとなっています。 ウレタン樹脂を厚くすれば耐水圧は向上しますが、反面、引裂強度と軽量性が損なわれる性質がありますので、現在のところ耐水圧、強度、製品重量の点でバランスの取れた「値」と判断しています。
しかし「移行昇華」と「加水分解」に注意が必要です。
「移行昇華」は生地が濡れた状態で一定時間密着すると、ウレタン樹脂を通して生地の染色が濃色から淡色へ移行する現象です。エスパースを濡れたままテントバックにしまい放置すると、グランドシートの色がテントパネルに色移りすることがあります。これが移行昇華です。必ずテントの保管の際には乾燥させてください。
「加水分解」はコーティングしたウレタン樹脂が劣化してベトベトになる現象です。やはり濡れたままでの保管や高温多湿の場所(車のトランク、屋根裏部屋等)での保管が大きな原因です。加水分解したウレタン樹脂は修復が不可能です。過酷なテスト(ジャングルテスト、温度75度/湿度95%の条件下)では約2年で加水分解が始まることが確認されています。保管には十分にご注意ください。
生地の組成と考えても良いのかもしれませんが、あえて「加工方法」のカテゴリーに入れました。
シングルウォールテントを可能にした防水透湿加工には古い実績を持つゴアテックス®がありますが、現在エスパースはテント用防水透湿素材としてX-TREK™を採用しています。
X-TREK™はGORE-TEX®と同じePTFEメンブレンをラミネートした3レイヤー素材で、表面が30dnリップストップナイロン、裏材が極薄織物となっています。
ウエアに利用されているGORE-TEX®とは性質が異なり、X-TREK™は通気性を持っています。ウエアの場合には防風性能を最重視するため通気性がありませんが、テントの場合には換気性能を重視していますので通気性があります。シュラフカバーに採用しているGORE-TEX®にも通気性があります。ただし、汚れに弱い特性がありますので、落としにくい油汚れ等には注意が必要です。
ラミネート加工なので、剥離による生地寿命があります。これはウレタン加工の加水分解と同様に「いつか」は起こりえる経年劣化です。
防水加工と勘違いされる方が多いのですが、撥水効果とは生地の表面に雨水を水滴にして「パラパラと弾く」効果のことです。エスパースに使用しているほとんどの生地には「撥水加工」を施し、生地表面に雨水が水膜状にベターと付着しないようにしています。撥水加工にはフッ素系、テフロン系等がありますが最近では耐久撥水に優れたナノ加工が注目されています。
内張りに施されている加工で、化学繊維を燃えにくくするものです。 ただし、不燃性にする加工ではないので、仮に火が移った場合には焼けて溶け落ちます。また経年変化するので火気の使用には十分に注意が必要です。
現在、多くの山岳テントポールにはアルミ合金製の中空ポールが採用されています。アルミ合金中空ポールの主力メーカーは韓国のDAC(ドンア・アルミニウム・コーポレーション)とユナン社、そしてアメリカのイーストン社です。過去のエスパースはイーストン社製を主力ポールとしていましたが、現在ではDACとユナン社のポールを採用しています。
テントスペックにある「7001」などは品番で、一般的には7000番台が良質と言われています。この品番は数字が大きいほど強度があるとされていますが、堅さ、太さ、長さ、そしてなによりテントの構造により、トータルで考えると「テントポールとしての強さ」として一概には比較できません。またその後に表記している「T-6」は硬度を表し数字が大きいほど堅いとされています。
マキシムナノ等に使用しているDAC・NSLポールはジョイント部と中間部の径に差を持たせ、強度を維持した上でより軽いモデルとなっています。
また、内蔵のショックコードには2010年よりシリコーン製のショックコードが登場しています。シリコーン製は低温特性に優れマイナス28度まで伸縮の劣化がほとんどないため、厳冬期にゴムが伸びてポールの接続に苦労するようなことがありません。現在マキシムナノ、マキシム-Xにシリコーンゴム製ショックコードを採用しています。
シングルウォールテントとダブルウォールテントと、どちらが良いかというお問い合わせを良くいただきますが、弊社では無条件にどちらかをオススメするということは避けています。どちらにも一長一短があるため、実際に使用される方の判断にお任せするしかないのです。以下にそれぞれの長所と短所を取り上げてみますので、ご購入の参考になれば幸いです。
シングルウォールテント(X-TREK™)
レインフライ不要なので、設営、撤収がスピーディー。特に悪天候時の設営には助かります。 降雪期の不意の降雨にも動揺しないで済む。
降雨時の出入りの際に入口より雨が吹き込みやすく、靴、炊事用具等の装備をテントの外に置くことが困難なので、室内が狭くなる。(いずれも前室フライで解消しますが、設営の手間がやや増えます)
また、これは短所とは言えませんが、一般素材のテントでも結露はありますので、X-TREK™が結露しないということはあり得ません。特に就寝時等など外気と内気の温度差がなくなると蒸気透過性は落ちてしまいます。
ダブルウォールテント(本体+レインフライまたは内張りまたはスノーフライ)
2重のウォールなので精神的に安心で、前室(後室)ができるのでテント室内が有効に使用でき、降雨時の居住性は格段に良い。 結露が2枚のウォールに分散されるので目視しにくく、快適感がある。
なんと言ってもフライシートを張る手間がある。
内張りや外張りを使用しレインフライ不携行時(降雪期)の予想外の降雨に対処が困難。(冬の雨、そしてその後の冷え込みがあると最悪ですね)
内張りはテント本体内部に取り付けるため、若干居住空間が狭くはなりますが、軽くコンパクトにできるという利点があります。また山行中は取り付けたままなので、テントの設営、撤収がすばやく簡単です。冬の縦走等には内張りが有効です。
一方テントの外側に取り付ける外張りは居住性を損なうことはないのですが、設営、撤収のたびに付け外しが必要なので、極寒時、乾燥時等には外張りの生地収縮により着脱が非常に困難となる場合もあります。また、内張りより生地の軽量化が出来ず、風の巻き込みを防ぐスノースカート等を装備するので、比較すると重くかさばります。冬の定着山行には良いでしょう。
ヘリテイジでは内張り方式を推奨していますが、スリーシーズンのソロ・デュオ エスパースユーザーの方々に向けて、冬山行にステップアップする際にオールシーズンテントの追加装備負担をしなくても良いように専用の外張り(スノーフライ)を用意しています。
日頃からのメンテナンスで、愛用のテントを末永く快適に使用することができます。山岳テントの構造はシンプルで素材もシンプル、それならメンテナンスもシンプルに行いましょう。
使用後はとにかく良く乾かす無事下山後にはとにかくテントを乾かします。山行中には直射日光で生地はダメージを受けますので、メンテナンスの時には直射日光はできるだけ避け、風通しの良い日陰で乾燥させてください。スペースがあればポールをセットして設営した状態にするとムラなく良く乾燥しますが、グランドシート裏面(底)はポールを抜いてから吊るして干ししてください。
テント内の食べかす、葉っぱなどのゴミは、テントを裏返して(設営した状態で逆さまにするのは絶対にNGです)きれいにはたき出してください。メッシュポケットに入れっぱなしのバンダナなどはないでしょうか?汚れ物はカビや悪臭の原因です。
泥汚れは乾燥後に手などで叩くだけでもかなり落ちますが、あまりに汚れているようでしたら、乾燥前や乾燥途中で濡れた雑巾やスポンジで拭き取ってください。グランドシートの少々の泥汚れは、完全に乾燥さえしていれば問題にしないでもかまいません。
洗剤の使用は避けてください。洗剤成分は撥水効果を妨げます。やむを得ず洗剤を使用する場合には、部分洗いに止め、すすぎを十分に行い洗剤成分の残留がないようにしてください。
ファスナーは一番の消耗部分ですので、メンテナンスはしっかり行いましょう。
エレメント(通称ムシというかみ合う歯の部分)やスライダー(つまみ)に詰まった砂や泥は大敵です。歯ブラシなどで毎回きれいにしてください。定期的にファスナー専用の潤滑剤(シリコンスプレーなど)を塗布するとスライダーの滑りが良く、開閉がスムーズになります。ミシン油などの粘着性のある油の塗布はNGです。
ファスナーが閉じなく(パンクする)なった場合、大抵はスライダーの交換で直りますが、エレメントが摩耗または破損しているとファスナー全体の交換となりますので、ファスナーを踏みつけたりしないように十分注意しましょう。
修理は弊社にて承っておりますので詳細は「修理に関して」をご確認ください。
撥水効果の回復防水加工とは別にテント各生地には水を水滴状に弾く撥水加工を施してあります。しかし撥水加工は徐々に落ちていきますので、定期的に市販のフッ素系の撥水スプレーを使用して撥水効果を維持するとより快適にご利用いただけます。刷毛塗りの防水剤にはベタつくものがありますのでご注意ください。
テントポールポールも良く乾かしてください。 ジョイント部分に腐食が始まると、ポール同士をつなぎ合わせにくくなります。またポール先端の石突きも錆で固着しないように、たまに外して(ねじって引き抜けるがショックコードと連結しているので注意)手入れをしてください。
破れなどの対処応急処置としてガムテープなどを利用するのは有効ですが、ガムテープは張ったままにすると糊が劣化して除去ができなくなります。
ミシン修理が困難になることがありますので、下山後には必ず剥がして適正な修理をしてください。
破れた場所にもよりますが、5cm程度の裂きキズでしたら市販のリペアシートなどで修理して問題ないでしょう。
フライシート、グランドシートのウレタン防水の経年劣化(加水分解により防水コートが溶けたようにベタベタになる)を進めないために保管の際には以下に注意してください。
本来の収納袋ではなく、メッシュなどの大きな袋にゆったりと畳んで高温多湿にならない場所に保管してください。屋根裏部屋、車のトランクなどでの保管はNGです。また、たまに広げて風を通し、再乾燥させるとベストです。